ここ数年で耳にする機会が増えた植物工場。
「植物工場」というワードは、それがもつすごく怪しい響きから何やらすごく人工的な手段が用いられていて、おそろしいモノが作られているのではないかとさえ思えてしまいそうですが、ここでは、植物工場とはどのようなものなのか、農業の各生産方式における植物工場の立ち位置から、植物工場の種類、植物工場の歴史を整理していきます。
Ⅰ.農業の生産方式による分類
まず、農業はその生産方式により大きく次のように分類されます。
1)露地栽培
温室などの設備を使用せず、露天の農地で作物を栽培する方法です。
人工的な温度調整を行わないため、その作物が本体育つべき季節に栽培されます。
雨風など自然環境の影響を大きく受けるため、その時どきに合わせた的確な状況判断と対応が必要になります。
2)施設園芸(ハウス栽培)
ビニールハウスなどを使用して温湿度をコントロールしながら作物を栽培する方法です。
加温装置を備えた施設とそうでない施設がありますが、露地栽培と比べ、自然環境の影響を受けにくくなるため、通年で比較的安定した栽培が可能となります。
3)水耕栽培
固形の培地を使用せず、培養液を用いて作物を育てる方法です。
4)植物工場
コンピューターなどを用いて温湿度や二酸化炭素濃度、光源といった室内環境を制御しながら栽培する方法です。
次で紹介しますが、植物工場には大きく分けて太陽光型と人工光型の2種類があります。
Ⅱ.植物工場の種類
1)太陽光型植物工場
その名のとおり、光源に太陽光を利用する方式です。(人工光を併用するタイプもあります。)
コンピューターなどで室内環境をコントロールしますが、人工光型と比べると自然からの影響が大きく、特に日射の影響を受けるため、温度管理のため天窓や側窓が必要となります。
また、設置は平面に限られるため広大な面積が必要になります。
栽培作物は、トマトやパプリカなどの果菜類や、リーフレタスなどの葉菜類等です。
2)人工光型植物工場
蛍光灯やLEDといった人工の光源のみを使用して栽培する方式です。
屋外からの影響をあまり受けることがなく、品質や収穫量が安定しやすいのが特徴ですが、その良否は環境制御技術に大きく依存します。
また、照明や空調に多くのエネルギーを必要としますが、近年の技術革新により省エネ化が進み、採算が取れてきているようです。
トマトやパプリカといった、捨てる部分(茎など)が多い作物はエネルギーのロスが大きく、採算が取れないためこの方式には向かず、栽培作物は主に葉菜類やハーブ、香草類などが選ばれます。
Ⅲ.植物工場の歴史
1)はじまりはデンマークから
ここ数年で急に盛り上がりを見せているようにも感じる植物工場ですが、始まりは1957年にデンマークのクリステンセン農場と言われています。そこでは葉菜類のスプラウトが栽培されており、この時すでにナトリウムランプによる補光も行われていたようです。
2)そしてオーストリアへ
その後は、オーストリアのルスナー社が1970年代から80年代初頭にかけて活躍をみせ、1980年にはウィーン郊外にタワー型の温室を建設しましたが、この温室を含め植物工場では十分な投資対効果が得られず、ルスナー社は植物工場から撤退しました。
3)アメリカでも
同じく1970年代から80年代にかけてアメリカでも複数社が植物工場事業に参入しました。70年代前半にはゼネラル・エレクトリック社が高圧ナトリウムランプを使用した人工光型植物工場を開発しました。また、80年代にはゼネラル・フーズ社とゼネラル・ミルズ社が人工光型植物工場を稼働させ、後にゼネラル・ミルズ社から事業を引き継いだファイトファーム社がシカゴに大型の植物工場を建設しましたが、いずれも採算が取れず90年代前半までに稼働を停止させました。
4)日本の植物工場
日本では、1974年に日立製作所中央研究所で研究が開始されました。栽培作物にはサラダ菜が選ばれ、植物工場に必要なさまざまなデータが収集され、日本の植物工場における基礎が築きあげられました。
その後、1980年頃になると静岡県の海洋牧場で日本初の実用化植物工場が誕生します。ここではカイワレが栽培されていました。
また、1983年には同じく静岡県に位置する三浦農園が高圧ナトリウムランプを使用した人工型植物工場を日本で初めて実用化しました。